卒業

長い一年だった。
あの震災の不安を共に乗り越えてきた彼らの絆は消えることはないだろう。


卒業式。子ども達を送り出す長い一日が終わった。
結局何も伝えられなかった。
感謝の言葉を耳にするたび、力足らずを申し訳なく思う。


卒業式はゴールなんかじゃない。
新たなスタートラインだ。勝負はこれからだ。
もっと伸ばせた…。もっと刻めた…。そう思いながら送り出す。
どんなに成長しても「もっと」「さらに」と思い続けてきた。
そんな毎日が終わった。
彼らは自分の手の届かない所へと歩み出した。
嬉しさ、淋しさ、悔しさ、虚しさが入り交じる。


お互いの道がある。
彼らは彼らの道。私は私の道。
全力で駆け抜けていけば必ず繋がれる時がくる。
過去にこだわるな。
思い出にしがみつくな。
「あの時はよかった」などと言ったら負けだ。
過去は踏み台にするもの。
さらに高く、さらに遠くへ行くために。


本日をもって小学校生活は過去のものとなった。
振り返っている暇はない。
私のことなんか早く忘れればいい。忘れてしまえ。


なんにもいらない。
感謝の言葉すらいらない。本気でそう思った。
彼らが力強く歩み続けていく背中。それだけでいい。
目が合い、うなずく。
そんな別れにしたかった。
言葉にすることで消えてしまうものもある。
言葉にしないことで伝わるものだってある。
子ども達への最後の言葉は一言だけ。
あとは目と手で伝えた。
話せば話すほど「何か」が消えてしまう気がした。
本気で伝えたい。だから話せなかった。


自分のことなど忘れていい。
自分の存在が忘却の彼方に去っても、自分の刻んだ言葉が、感覚が子ども達の中に生き続けていけばそれでいい。
「結果」はこれから先長い年月をかけて少しずつ創られるもの。
だから今日「ありがとう」の言葉なんていらない。
その言葉は未来にとっておけ。
忘れ去った時に「結果」が出る。
自分の存在がまったくなくなった時、子ども達がどう歩むかだ。


虚しい。胸に穴の開いたようなこの感情。
この虚しさの中でしか人は成長できないのだろう。
虚しさを積み重ねる。その過程で何かが体に流れ込んでくる。
気づかない間に、少しずつ深みが増していく。


みんないい顔をしていた。
いい式だった。
おかげで先に進める。
彼らに感謝。
まだまだだ。もっと高く。もっと遠く。
自分も走り続ける。それしかできない。